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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)62号 判決

控訴人(原告) 赤松茂 外二名

被控訴人(被告) 国・大阪市東住吉区東部農業委員会

主文

一、控訴人らの被控訴人大阪市東住吉区東部農業委員会に対する本件控訴を棄却する。

同被控訴人に対する控訴費用は控訴人らの負担とする。

二、原判決中被控訴人国に対する部分を取消し、控訴人らと同被控訴人との間の事件を大阪地方裁判所に差戻す。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人らに対し、控訴人らの所有に係る原判決末尾物件表記載の土地について、控訴人らに対して施行した政府買収に関する買収計画、その公告、異議却下決定、裁決、承認申請、承認書、買収令書の発行、交付と云う政府買収手続上の各行政行為の無効なることを確認すべし。被控訴人国は控訴人らに対し、前記各土地につき行われた政府買収処分及びこれに基く政府の売渡の各行政処分の無効なること、並びに前記各土地につき大阪府知事が行える農林省名義の所有権取得登記及び農林省よりの売渡登記の各無効を確認し、控訴人らが前記各土地の所有権を依然保有することを確認し、同知事の各登記抹消を容認すべし。訴訟費用は第一、二審を通じ各被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

理由

一、控訴人らは原審においては、控訴人赤松茂は原判決添付第一物件表記載の土地について、控訴人赤松ミ子は同第二物件表記載の土地について、控訴人赤松照夫は同第三物件表記載の土地について、それぞれ「大阪府中河内郡加美村農地委員会が定めた買収計画及びその買収計画に基く政府の買収を取消す。被告らは右政府の買収の無効であること、並びに右の買収計画、及びこれに関する公告、異議却下決定、裁決、承認、買収令書の発行の無効であることを確認せよ。」との判決を求めていたが、当審において請求の趣旨を前掲事実摘示欄に記載のとおり変更したから、従前の請求中、被控訴人らに対し「買収計画及びその買収計画に基く政府の買収の取消を求める部分」、被控訴人委員会に対し、「政府の買収の無効であることの確認を求める部分」は訴を取下げたものと認める(被控訴人らが右請求の趣旨の変更に異議を述べなかつたことは記録上明らかであるから右変更による訴の一部取下げに同意したものとみなされる)。又控訴人赤松茂は昭和三五年四月二二日付で、被控訴人委員会に対する関係で、原判決添付第一物件表記載の(2)、(3)の土地について、次いで同年六月一七日付で被控訴人両名に対する関係で同第一物件表記載の(15)の土地について、それぞれ訴の一部取下書を提出した(同書面はそれぞれ被控訴人らに送達せられたが、三月内に異議を述べなかつたことが記録上明らかであるから、右各土地に関する部分の訴の取下げに同意したものとみなされる。)。

よつて右各取下げに係る請求部分については判断の対象から除外する。

二、被控訴人委員会に対する控訴について。

控訴人らの同被控訴人に対する訴のうち、原判決添付第一ないし第三物件表記載の土地(但し第一物件表中前記(2)、(3)、(15)の土地を除く)についてそれぞれ買収計画の公告、裁決、承認申請、承認書、買収令書の発行、交付の各無効確認を求める部分、控訴人赤松茂が同第一物件表記載の(9)、(16)、(19)、(20)の各土地について、控訴人赤松ミ子が同第二物件表記載の(1)、(6)の各土地について、それぞれ買収計画、異議却下決定の各無効確認を求める部分は、いづれも不適法として却下すべきものであり、又その余の土地につき買収計画、異議却下決定の各無効確認を求める部分は、いづれも理由なしとして棄却すべきものと認めるものであつて、その理由は原判決理由の一、(四)の部に「都道府県農地委員会が市町村農地委員会の買収計画を承認する行為」とあるを、「市町村農地委員会が都道府県農地委員会に対し買収計画の承認申請をなし、都道府県農地委員会がこれを承認する行為」と改め、又一、(三)の部に「買収令書の発行(買収処分)の無効確認を求める部分は」とあるを「買収令書の発行、交付(買収処分)の無効確認を求める部分は」と改め、なお当審における変更後の請求の趣旨中「承認書」と云う行政行為の無効確認を求めるとあるのは、「承認書」なる書面の無効確認を求める趣旨ではなく、承認書に表示せられた承認なる行政行為の無効確認を求める趣旨であると解し判断すると附加するほか、原判決理由に示すところと同一であるからここにこれを引用する。よつて控訴人らの被控訴人委員会に対する控訴はいづれも理由なしとして棄却すべきものとし、同被控訴人に対する控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文第一項のとおり判決する。

三、被控訴人国に対する控訴について。

原判決は、控訴人らの被控訴人国に対する訴のうち、買収令書の発行(買収処分)の無効確認を求める部分について、同被控訴人に被告適格がないとしてこの部分を含む訴全部を不適法として却下したが、買収処分の無効確認を求める訴については、被告適格につき明文の規定のある買収処分の取消を求める訴と異り、都道府県知事のみならず、買収処分の効果の帰属する行政主体である国もまた被告適格を有し、そのいづれを被告として訴を提起しても適法であると解するのが相当であるから(最高裁昭和二九年一月二二日判決、最高判例集第八巻一号所載、大阪高裁昭和三六年七月八日判決、行政事件判例集一二巻七号所載、東京地裁昭和三六年一一月一六日判決、同判例集一二巻一一号所載参照)、原審が右買収処分の無効確認を求める請求部分について訴を不適法とし本案の判断をしないで訴を却下したのは違法であるといわなければならない(もつとも原審は、相被告である被控訴人委員会に対する訴のうち、買収計画の取消、買収計画及び異議却下決定の各無効確認を求める部分の請求の当否を判断する際、控訴人らが本件買収処分の無効原因として主張する事実のうち、買収計画及び異議却下決定の違法の有無について判断しているが、その余の控訴人ら主張の買収処分の無効原因たる事実、即ち買収計画に対する異議却下決定に対する訴願庁の裁決、買収計画に対する大阪府農地委員会の承認についての各違法の有無、控訴人らに対する買収令書の交付又は公告の有無、同令書の発行交付自体についての違法の有無については何らの実体的判断を示していない)。

そうすると控訴人らの被控訴人国に対する控訴は右の点において理由があるから、民事訴訟法第三八八条により原判決中被控訴人国に対する部分を取消し、同被控訴人との間の事件全部を第一審裁判所に差戻すべきものとし主文第二項のとおり判決する。

(裁判官 岡垣久晃 宮川種一郎 山内敏彦)

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